精神科医はどのように
『抗うつ薬』を使い分けているのか?
2026/03/27
私たち精神科医は、うつ病・うつ状態の薬物治療として、通常『抗うつ薬』を使用します。
一概に『抗うつ薬』といっても様々な種類があります。
【抗うつ剤】
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)
- セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)
- パロキセチン(商品名:パキシル)
- フルボキサミン(商品名:デプロメール、ルボックス)
SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
- デュロキセチン(商品名:サインバルタ)
- ベンラファキシン(商品名:イフェクサー)
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作用性抗うつ薬)
- ミルタザピン(商品名:リフレックス、レメロン)
三環系抗うつ薬
- アミトリプチリン(商品名:トリプタノール)
- ノルトリプチリン(商品名:ノリトレン)
- クロミプラミン(商品名:アナフラニール)
- イミプラミン(商品名:トフラニール)
等
四環形抗うつ薬
- マプロチリン(商品名:ルジオミール)
- ミアンセリン(商品名:テトラミド)
SARI(セロトニン遮断再取り込み阻害薬)
- トラゾドン(商品名:レスリン)
その他
セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤
- ボルチオキセチン(商品名:トリンテリックス)
【抗うつ剤以外で使用される薬】
また、抗うつ剤ではないのですが、うつ病・うつ状態の治療として使用されるのが
定型抗精神病薬
- スルピリド(商品名:ドグマチール)
非定型抗精神病薬
- アリピプラゾール(商品名:エビリファイ)
- オランザピン(商品名:ジプレキサ)
- ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)
です。
そもそも、なぜ『抗うつ薬』はうつ症状に効果があるのでしょうか?
脳の中には、神経伝達物質という、脳の神経細胞を連絡している物質があります。その多くは、モノアミンというアミノ酸から作られ、そのうちうつ病・うつ状態と関連しているものが、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンです。
そして、これらの神経伝達物質の機能障害によりどのような症状が出るかといえば
- セロトニン
- 不安、焦燥
- ノルアドレナリン
- 活動性低下、億劫感
- ドーパミン
- 無気力、無感情、疲れやすい、楽しめない
といったような症状が現れます。
『抗うつ薬』や『抗精神病薬』は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンに作用する事で抗うつ効果を発揮します。
心というより、脳レベルで作用し効果を発揮します。
- 『抗うつ薬』は主に、セロトニン、ノルアドレナリンに作用します。
- 『定型・非定型抗精神病薬』は、主に、ドーパミンに作用します。
つまり、薬によってそれぞれ得意分野があるという事です。
そして、同じうつ病であっても、
- 意欲の低下が強いタイプ
- 不安が強いタイプ
- 倦怠感が強いタイプ
- 焦燥感が強いタイプ
- 不眠が強いタイプ
など様々なタイプがあり、それぞれが混在している場合も多々あります。
我々精神科医は、患者さんのうつ病のタイプに合わせて、『抗うつ薬』を選択していきます。
また、同じ患者さんでも、うつ病の治療経過、時期、状況に応じて症状が変化していくことが多々あります。
例えば、仕事のストレスでうつ病になり、休職しながら治療が始まった場合、不安が主な症状として出ることが多々あります。
その際は、まず不安に優先的に効果がある『抗うつ薬』を選択します。薬が効果を発揮し、また、休職したことで徐々に不安が改善していきます。
そうなると、今度は不安の背後に隠れていた、意欲の低下、倦怠感などが前面に出てきます。その段階で意欲の低下に効果がある『抗うつ薬』に切り替えたり、倦怠感に効果がある『非定型抗精神病薬』を加えるなど、お薬の変更をしていきます。
もちろん逆の場合もあり、治療開始時には意欲の低下や億劫感が強くみられることもあります。
その後、治療が進むにつれて社会復帰への不安が強くなる場合もあるため、ケースバイケースでお薬を選択していきます。
その他、患者さんのご年齢、性別、月経周期の影響の有無、季節変動の影響の有無、体質、就労環境など、様々な視点から最適な治療薬を選択していきます。
このあたりは、精神科医としての治療経験・実績、腕の見せ所といったところでしょうか(^^)
また、当方は上記に加え『過覚醒の有無』を必ず確認します。
(過覚醒の詳しい説明は、コラム「ストレスと過覚醒」、また、過覚醒とうつ病との関係は、コラム「ストレスで心を病むとは?」を参照頂ければ嬉しいです( ◠‿◠ ) )
その理由は、うつ症状に加え、過覚醒状態か併存していると『抗うつ薬』の効果が十分に発揮出来なくなってしまう恐れがあるからです。
これはおそらく、過覚醒状態という戦闘モードでは脳の休息が得られず、『抗うつ薬』の効果が上手く機能しない(追いつかない)からだと当方は考えております。
であるので当方は、うつ病・うつ症状の患者さんに過覚醒状態の有無を確認して、過覚醒状態であれば『抗うつ薬』の治療に加え、過覚醒に対する治療も同時に行います。
場合によっては、まずは『抗うつ薬』は使用せずに過覚醒の治療を先に行います。
そうして過覚醒が改善したにもかかわらず、うつ症状が改善しない場合に『抗うつ薬』での増強を行うという2段階で治療を進めていくこともよくあります。
また、西洋医学的側面だけではなく東洋医学的側面として補う必要があれば『漢方』を併用します。
- 気虚(無気力)状態であれば、脾胃を中心に気虚、気鬱、気逆を治す漢方。
- 血虚(不安が強く、気力・意欲が出ない)状態であれば、補血の漢方。
等を組み合わせます。
うつ病治療での薬の選択は、各々治療者によって異なります。
かかりつけの先生に相談してみましょう(^^)/
文責:パークサイド日比谷クリニック院長 立川 秀樹
プロフィールはこちら
※本掲載内容を許可なく転載することを禁じます
- 院長コラム
- 桜と心の不調
- 産後うつ病
- ストレスに強くなる、意外!?な方法(前編)
- ストレスに強くなる、意外!?な方法(後編)
- 新しい双極性障害の治療薬が登場しました
- テレワーク不安・不眠GW前後で、ストレスがどのように変化したか~葛藤対象の変化~
- GW前後での変化~マズローの欲求5段階とは~
- テレワーク不眠・不安と、マズローとの関係
- テレワーク不眠・不安がテレワークうつへ移行
- テレワークうつにならないためには
- ADHD:薬物療法の意義
- ADHD:薬物療法の種類
- 叱り方総論(パパ・ママ編)
- 叱り方別(ママ、女性編)
- 叱り方別(パパ、男性編)
- 自粛による昼夜逆転生活の防止
- うつ状態と怠けの違い
- 健康な食事しか食べられない人たち~オルトレキシア
- テレワークうつ
- 「テレワークうつ」にならない為には
- テレワークうつ 医療機関受診の目安
- 新型コロナ関連ストレスが、心に及ぼす影響
- 新型コロナストレスと過食
- コロナ過食を防ぐための8か条
- 新型コロナに感染しない為には(精神医学的アプローチ)
- 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、どのくらいの期間生存するのか?
- 新型コロナ関連ストレス長期化することによって生じる問題
- 他の敏感な人たち~シゾイドパーソナリティ、発達障害~
- 新しいうつ病の治療薬が
登場しました! - HSPと過覚醒
- HSPと適応障害・うつ病
- 敏感すぎて疲れてしまう人~HSP~
- 高照度光療法
- ストレス対処方法概論
- ストレス対処方法各論
- ストレス対処方法各論
~問題対処外向型~ - ストレス対処方法各論
~問題対処内向型~ - 熱中症と漢方
- 不眠にだるさ、食欲低下…
夏バテと“夏うつ”の違いとは? - 年代別でみる心の病
- パニック障害とパニック発作
- ストレス性で心を病むとは?
- ストレスに強くなるには
- こころの病気の診断方法
- こころの病気の治療
- 朝起きと健康の関係
- 朝起きられないが、夜元気な人たち~夜型人間~
- 早寝ノススメ
- ストレスと過覚醒
- 五月病と過剰反応
- うつ病と食事
- 気象病と寒暖差
- 抜毛症でお悩みの方へ、切なるお願い
- 適応障害とうつ病の違い(一般論)
- 適応障害とうつ病の違い(当方解釈)
- 適応障害とうつ病の違い(治療編)
- 抗うつ薬のやめ時
- 抜毛症になりやすい人
- メニエール病と過覚醒
- 運動でうつ病予防
- 睡眠と運動
- SNS断ちでうつや不安が改善
- コロナ後遺症と過覚醒
- コロナ後遺症とブレインフォグ
- ブレインフォグの原因
- 「ヘアロス」とは
- 敏感すぎて疲れる人へ~気疲れを和らげるコツ~
- 抜毛症と現在バイアス(Present bias)
- コロナ後遺症なぜ長引く?~その①~
- コロナ後遺症なぜ長引く?~その②~
- 抜毛症~髪は、なが~い、友達です~
- 毛髪疾患サポートハンドブック
- 夏バテと漢方
- 不安(パニック)でMRIが受けられない
- 夏バテと睡眠負債
- 午前中眠くて仕方ない人へ有効な治療薬!?
- ブレインフォグとセロトニン(新型コロナウィルス感染後遺症)
- 抜毛症治療Q&A(2024年新春版)
- 悪夢に感謝?!
- コロナ禍、心の健康を保つ秘訣~会話時間の大切さ~
- 睡眠の質と夢の関係
- コンサルタントが病まない為には
- 冬季うつ病とは
- うつ病と漢方
- パニック障害と漢方
- 不眠症と漢方
- 気象痛と漢方
- 夏バテと漢方
- 特殊な抜毛~眠っている時に間に髪を抜いてしまう~
- うつ病と高照度光療法~日光浴のすすめ~
- クービビック(2024年12月発売の不眠症治療薬)
- 月経前増悪(PME)
- 脱毛症(円形脱毛症など)とストレス
- 脱毛症と漢方
- 吐き気・不眠・涙が出る症状の原因とは
- 抜毛抑制ウィッグ!!
- 電車や会議室で吐き気、息が苦しくなる~テレワーク終了による弊害~
- 過食症におすすめな食事~前編~
- 過食症におすすめな食事~後編~
- 抜毛症外来の現状
- 気象病~今年の特徴(R7年)~
- 睡眠と筋肉~筋肉時計~
- 過食症の傾向(18年間の動向)その1~過食の成り立ち~
- 新しい、不眠症の治療薬(ボルズィ)が登場~2025年11月版~
- 「うつ」で医療機関を受診する目安
- ~2026年元旦~多忙でも、ストレスを和らげる方法
- 過食症の傾向(18年間の動向)その2~慢性化した過食症~
- 過食症の傾向(18年間の動向)その3~過食症の治療方法~
- 新しいタイプの睡眠薬(オレキシン受容体拮抗薬)
- 機能性低血糖と心の不調
- 花粉症とストレス
- 抗うつ薬の様々な効果
- 春バテとは(傾向と対策)
- 精神科医はどのように『抗うつ薬』を使い分けているのか?
- 病気のコラム
- 摂食障害
- 不眠症
- 食べないと眠れない症候群
夜間摂食症候群(NES) - 寝ている間に食べてしまう
症候群 - 社交不安障害(SAD)
- 統合失調症
- 適応障害
- 抜毛症
- 依存症
- ADHD(注意欠陥・多動症)
- 仮性認知症
- 更年期障害
- 更年期障害に伴ううつ状態
- 非定型うつ病
- 気象病
- 舌痛症
- 心身症
- 月経前症候群
- 慢性疲労症候群
- うつ病
- ディスチミア型うつ病
- 新型うつ病
- 仮面うつ病
- 冬季うつ病
- 強迫性障害



