健康な食事しか食べられない人たち~オルトレキシア
2020/5/7
ちょっと変わった摂食障害
日常、摂食障害を専門に診療していると、一般的な拒食症、過食症とは少し異なる患者さんを治療することがあります。
一般的な摂食障害は、体型や体重、カロリーに対する拘りが強くなり、また、自己像の障害(body imageの障害)を伴う、拒食症、過食症であります。
しかし、これら一般的な摂食障害とは異なり、「健康な食事(本人が考える)しか食べられなくなってしまう人たちもいるのです。
オルトレキシア
「オルトレキシア」です。
この言葉は、厳密にいえば正式な医学用語ではなく、症候群的な言葉です。
1997年にアメリカ人の医師、スティーブン・ブラットマンが提唱した症候群です。
これは、自分が健康的と思える食事以外を拒食する摂食障害です。
拒絶の例
例えば、「小麦を使っているものはダメ」、「添加物が入っているものは一切ダメ」、「防腐剤が入っているのは一切ダメ」、「動物性食品はダメ」、マニアックなものになると、「増粘剤が入っているものはダメ」などがあります。
逆に、「白米しか食べてはいけない」というパターンもあります。
あくまでも「自分が」健康的と思う食事です
ここで大切なことは、「自分が」健康的と思える食事であって、すべからく健康的という訳ではないということです。
健康的な食事であれば、良いじゃないかと一見思えますが、それが、過度になると、栄養バランスの偏りや、低体重になってしまったり、また、他人と一緒に食事に行けない、外食できないなど、本人の社会生活への支障もきたすようになります。
強迫性障害の傾向も
当医は、このオルトレキシアは、摂食障害のなかでも、強迫性障害の要素がかなり強い病態ではないかと考えます。
最初は、健康的な食事を選ぶことで、より健康になりたいというポジティブな思考から始まりますが、そのうち、「より健康的」とうい概念から「絶対的な健康」へとシフトしてしまい、all or nothing概念が強くなり、最後には、それ以外は「悪」であるという強迫観念に支配されていきます。
そして、次第に自分が健康的と思えるモノしか食べられなくなり、そのため、友人と食事に行けなくなり、また、会社での会食、付き合いにも参加できず、孤立してしまいます。
つまり、最初は自分にとって「得なこと」から、自分にとって「得でない事」に変わってしまいます。
自分でも、決め事をもう少し緩くして、もっと人と楽しみたい気持ちがあるにも関わらず、どうしても、その決め事が払しょくできず結果的に自分にとって好ましくない選択をしてしまいます。
ここまでくれば、立派な強迫性障害です。
強迫性障害とは、わかりやすく言えば、「わかっちゃいるけど、やめられない」という病理です。
食べるという行為が、自分でコントロールしているはずが、コントロール出来なくなっている状態です。
この状態では、心のレベル(そうしたいと自分で判断しているレベル)から、脳レベル(判断からコントロール感がなくなるレベル)になってしまっています。
恐らく、神経伝達物質のセロトニンの機能障害を起こしている可能性があります。
このレベルでは、医学的治療が必要なケースが多くなります。
もちろん、健康的な食事に拘ることは決して悪い事ではありません。
ただし、過度になりすぎて、自分の身体的健康や、社会的健康を脅かすものになるほど拘ることは、自分にとって得ではないですよね。
オルトレキシアが疑われる10つの特徴
参考まで、オルトレキシアが疑われる10つの特徴を記しておきます。
- 1:一日のうち3時間以上の時間を、健康的な食事について考えてしまう(意識に上がってしまう)
- 2:翌日の献立(自分の基準を満たす完璧な)を考えてしまう(意識に上がってしまう)
- 3:食事がより健康的になるにつれ、生活の質が低下している(生活に不都合が出てくる)
- 4:自分自身、自分の決め事に厳しすぎると感じる
- 5:健康的な食事をすることで、自尊心が上がっていく
- 6:健康的な食事をしていない人に対して見下してしまう
- 7:(自分にとって)正しい食事を摂るために、大好きな食べ物を犠牲にする
- 8:自分が決めた食事をすることで、家庭での食事に支障が出たり、家族や友人と距離が開いてしまっている
- 9:普通の食事をしたら、罪悪感や自己嫌悪感を感じる
- 10:食べる行為を、自分で完全には、コントロール出来ていない
気になった方は、一人で悩まず、お気軽にご相談ください。
※本掲載内容を許可なく転載することを禁じます
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